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mindscape travel_15 イゾラ・ベッラ
mindscape_travel ここまで数回にわたり、中国蘇州の街から清の時代の庭園を幾つか訪ねてきましたが、ここで中国から一気に北に飛んで、イタリアのルネサンス庭園のひとつに行ってみましょう。やはり蒸し暑い夏は、こういう避暑地に逃げたいものです。ここは、イタリア北部、ミラノから更に200Kmほど北、スイス国境に近いマジョーレ湖に浮かぶ、「イゾラ・ベッラ」という避暑別荘です。イタリア・ルネサンス様式の露壇式を典型的に表し、マニエリスムからバロック的要素を色濃く出した庭園。何と言っても、湖上に浮かぶ孤高の要塞庭園というロケーションが、訪れる前からの期待感を増幅します。対岸から小さな船に乗って約15分ほど。こういうアプローチは格別です。

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「イゾラベッラ」は、300m×400mほどの小島。ミラノの名家、ボロメオ家のカルロ3世が、妻イザベラのための別荘として構想し、建築家アンジェロ・クリヴェッリの設計によって1632年に着工します。度重なる中断により庭園を含めて完成したのは1671年、カルロ3世の甥、カルロ4世の代になってから。完成後は、演劇やパーティーが毎晩のように催され、賑わいました。ボロメオ家にとっては、当初は非公式な、そしてやがては公式な社交場となっていきます。庭園は、別荘とは言え、この時代から秘密の花園的雰囲気を担保しつつ、多くの人々を招いて楽しむ場となり、政治的会談や商談などのイベントにも利用されます。バロック特有の劇場的な様相を呈して行く一方、珍しい植物の収集生育場、多様な彫刻やオブジェ、水や休憩施設などなどのエレメントが複合的、複雑に絡み合って空間が出来上がっていくところも興味深い。基壇がセットバックしながら積み上がる中央のテラスは、シンメトリカルに安定的ではなく、宮殿とも微妙にズレた軸性を持ち、ボロメオ家の紋章であるユニコーンやビーナスに混じって、ローマ神話やギリシャ神話をモチーフにした動物やニンフの彫像、オベリスクなど置かれ、宮殿の造りと合わせて、どこか迷宮的な混沌が表れています。それでも一番高台に上がって、湖と遠くの山々を見ると、船のデッキに上がったような清々しい心地にさせてくれます。

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この庭園の中で、一貫して現れる、表面がゴツゴツとした、少々グロテスクなテクスチュア。そう、グロテスクの語源と言われる「グロット(=洞窟)」の造作が、建築空間の狭間を埋め尽くすかの如く、様々な場面で顔を出しています。ハイライトをなしている場所は、ボロメオの宮殿内の、シェル・グロットと言われる応接間(現在は展示室)と、庭園の段々テラスの内側の突端にある、「ビーナスの泉」。シェル・グリッドは、少々暗い、まさに洞窟的な雰囲気をもった、でも完璧なインテリア空間。「ビーナスの泉」の方は、カラッとした屋外。山奥の避暑地の湖であるのに、海を連想してしまします。いずれも、これより初期のグロットに見られた、自然を装った有機的な造りではなく、あくまで建築の壁面に沿ったテクスチュアであったり、雛壇に整然とデザインされていたり、と、かなり人工的にデザインされているのが分かります。

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グロットは、1580年代からイタリア庭園の中に顕著に現れ始めますが、初期の頃は、庭園のある一部分に、洞穴状に掘られた場所に、有機的な石を組み上げたものだったり、どちらかと言えば、怪奇趣味的な要素として持ち込まれていた感がありました。しかし、それが徐々に表へと出てきて、ここイゾラ・ベッラにおいて、庭園の中心的な要素として取り入れられるまでとなり、ひとつのピークに達したと見ることが出来ます。よく、神秘主義の嗜好であるとか、混沌とする世の内面的な逃避先として好まれたとか、解説されることが多いようですが、私には、もっと大きな世界を見通しているように思えてなりません。それは、海であり、さらに遥かかなたの世界のようにも感じます。(続く)
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by mindscape-ltd | 2010-07-07 00:02 | travel
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