グスタフスン・ポーターは、アメリカ人ランドスケープアーキテクト、キャサリン・グスタフスンと、イギリス人のニール・ポーターによって結成された、ロンドンをベースに活動するデザイン事務所である。ポーターは、ベルナール・チュミの下でラヴィレット公園の設計に携わり、その後グスタフスンとチームを組み活動をはじめた、イギリス人の数少ない先鋭的なランドスケープ・アーキテクトである。 2004年、彼らの代表作のラインナップに新しく加わったのが、「ダイアナ、プリンセス・オブ・ウェールズ・メモリアル・ファウンテン」である。これは、その名の通りダイアナ妃の死を悼んで、ハイドパークの、サウス・ケンジントン寄り、「セルペンタイン(蛇)」と呼ばれる池のほとり、1エーカー(約4000平米)ほどの敷地内につくられた、楕円形の水路と芝生、園路だけのシンプルでエレガントな記念広場である。 デザインのコンセプトは、グスタフスン・ポーターのホームページに、以下のように説明されている。 ー グスタフスン・ポーターのデザインは、「リーチング・アウトーレッティング・イン(手を差し伸べることー受け入れること)」というコンセプトを体現している。これは、プリンセスが人々に最も愛された気品、即ち彼女の持つ包容力と親しみ易さに基づくものである。開放的なランドスケープに囲われた存在感のある噴水は、外に向かって放たれる、同時に人々を強く惹き付けるエネルギーを持っている。泉を流れる水は、石のテクスチュアと、ジェット噴水などと相まって、実に多彩な表情見せている。ー(筆者訳) 芝生の広場に、エレガントなフォルムの歪んだ楕円の、白御影石で作られた幅訳1.5mほどの水路。一見、極めてシンプルに見えるモニュメントであるが、流れに沿って、モニュメントを一周すると、静かな湧き水に始まり、カスケード(段々の落水)、早く細い流れ、石に当たって飛沫を上げたり、静かな水たまりとなったり、実に多彩な水の表情が次々と現れる。そして、その部分部分での水音でもわかるほどに、かなりの水量があり(毎秒100リットルの水量をポンプアップしているとのこと)、相当の技術的なチャレンジが背後に潜んでいることも想像出来る。この辺りも彼らのホームページに詳細に記されているが、クレイ模型を基に3Dのモデリング、コンピュータによる解析と調整を重ね、多くの技術者と共に、作り上げられたとのことである。このクレイ模型から3Dのモデリングを行い、それを基に機械彫刻によって、この水路の石が完成している、という点も注目に値する。そう、この水路の石の作りをよく見ると、明らかに、職人が手で彫って製作したのとは異なる風合いの彫り味が現れている。カスケードの段々に刻まれている縦方向のスリット、鱗状の曲面、岩肌のようなゴツゴツとした突起、この精巧なリズムの反復は、人が手で作り上げるテクスチュアとは明らかに異なる。モニュメントといっても、垂直に突出した彫像物ではなく、極めて繊細な先端技術とデザインの融合というあたり、まさに気品のある、新しいモニュメントである。
by mindscape-ltd
| 2010-09-10 15:39
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