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mindscape_travel_#23 福建土楼
先日、新聞に掲載されていたツアー旅行の広告に「世界遺産、福建土楼を巡る旅」というのを見つけ、ついにあそこもツアー旅行で行く場所になってしまったか、と驚いた。私も、純粋に「面白い風景と建築を見たい!」という一心で訪れた中国福建省の山奥の土楼。2008年に世界遺産に登録され、その後どうなったであろうか。今思い返すと、景観、保存、ツーリズム、グローバリズム、そしてランドスケープの在り方などなど、その興味深い建築そのもの以上に、土楼を巡るより多くのことを深く考え起こさざるおえないことになってきた。
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福建省の山奥、永定という村を中心に散在する福建土楼は、色々な意味でデザイン的な興味が尽きない。まず第一に、厚い血縁関係と祖先信仰に支持された集住形態。山奥の集落というには、かなりの高密度な居住スタイルである。これは、よく知られるように客家という漢民族一派ではあるものの、移住を繰り返す先での他民族や地縁集団との争いから身を守るために、要塞のような住宅形態に至ったことに起因し、規模は様々であるが大きなものでは300人を超える一族が、ひとつの土楼の中で暮らしているということ。
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第二に、この要塞のような不思議な住宅の建築的面白さ。土楼という名の通り、土のレンガを積み重ねてで出来た頑丈な外身の内側は、実に対照的に柔らかい生活臭のある表情が漂っている。但し円楼(または四角い方楼)毎に、中身の表情はかなり異なっており、1階が炊事場、家畜小屋、倉庫などの共有スペースで、2階から上が各家族や子どもらの居室という大まかな原則はあるものの、1階はただの広場や庭である場合もあれば、迷路のように入り組んで、小屋や部屋がつくられている場合もある。2階以上も、家族のヒエラルキーがしっかりと守られているものと、かなり緩やかな部屋割りになっている場合とがあるようだ。
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第三に外部の水田や茶畑などの田畑や、墓、祠などランドスケープ的スケールでの関係性。住宅部分が密度高く円の中に収められている一方で、広い田畑、山が豊かに残され、山の眺めの良い頂近くに一族の墓や祠が置かれている。一見すると日本の里山を思わせる風景にUFOのような土楼が、着地したようなユニークな景観が生まれている。
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私がここを訪れたのは1999年。この建築と風景に圧倒されたのはもちろんであるが、それにも増して印象深かったことと言えば、この一見排他的な要塞のような建物に、一族が伝統的な生活を守りつつ生活するという場所で、よそ者がふらっと訪れたにも関わらず、想像を遙かに超えた温かい歓迎を受けたことである。まずは、子どもたちが、珍しさに愛想良く寄って来て人だかりをつくったかと思えば、次にお年寄りが茶を振る舞ってくれ、終いには、一族の若旦那のような、強靱な男が、言葉も通じないのに土楼内を隅々まで案内をしてくれ、料理や酒まで出してこようとする。この田舎ならではの温もりは、考えれば他の国の他の場所でも味わったことではあるが、特に自らの生活と伝統に誇りを持つ者の証しのように感じるのだ。
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一晩を過ごした、承啓楼というひときわ立派な土楼では、もちろん、ハード面での設備は、都市部の一つ星のホテルにも全く及ばない貧相さと、時に驚愕とするもの(特にサニタリー系設備)すらあるのだが、そんなことを払拭するほどの、真のホスピタリティを感じる。好きな部屋を選べとばかりにひとつひとつの部屋を案内をしてくれたり、翌日の旅程を親身に相談に乗ってくれ、結局翌早朝は、麓のバス停まで、バイクのリヤカーで送ってくれたりといった、宿泊施設をプロとして運営しているにはあり得ないようなサービスであった。
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2008年ユネスコ世界遺産に登録され、アモイからのアクセスも格段に良くなったと聞くが、連日多くの観光客が訪れるようになっている今日、もはやこのような歓迎ぶりは無くなっているかもしれない。それは、ツーリズムのジレンマである。
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土楼に塗り込まれた歴史の厚みがあり、自然との均衡があり、更に、人々の素朴な生活ぶりと、温かな交流。これが本来のランドスケープに希求されるべきものであるとすれば、ここはその当時、それが真に体感できる場所であった。勿論、ユネスコの世界遺産の登録に相応しい地であることには疑いの余地が無いが、それによって、当然の如く増大するであろうツーリストに対応するべきプラニングと言えば、建築や自然を何とか景観として(視覚的に)残して行くことであり、サニタリー設備が現代的に更新されることと引き替えに、綺麗な道や駐車場や土産物屋など付帯施設も増え、多くのツーリストを迎えれば、相応のそつのない対応を学び、生活は少しづつ変わってゆくことになるのは避けられないであろう。一族が結束して生活してきたことこそが、この土楼の真髄であったとしたら、恐らく多大な人々の往来は、それに少なからず変化をもたらすはずだ。しかしながら、この不可逆的な流れを「止めろ」と、果たして誰が言えるのだろうか。
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by mindscape-ltd | 2010-11-08 21:41 | travel
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