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mindscape travel_03
ヴィランドリー城の菜園

ロワール河一帯に点在する中世の城館のひとつ、日本人にもたいへん人気の観光地である、このヴィランドリー城は、1536年、フランス国王フランソワ1世の財務大臣を務めたジャン・ル・ブルトンによって築城されるも、付属する露壇型のルネサンス様式の庭園がツーリストをことのほか来訪者を楽しませている。「菜園」を十文字など整形区画に栽培する手法も、中世の修道士の伝統そのものであるから、中世からルネサンス期の遥かな時間軸を遡るのに絶好の空間であるかに思われる。しかし、この庭園の解説を丁寧に読むと、20世紀初頭に大規模な造成工事がなされ、現在の庭がデザインされ、つくられたということが記されている。
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整形の区画の中にボックスウッドのマッシブでシャープな塊と、その中に繊細かつ多彩に、そして生き生きと育つ、野菜や花々。この厳格かつ精緻な構成、作りと、その維持には、全く感服するしかない。野菜の苗をこれほど嘆美に見せる庭はほかに例がない(日本の畑でも、精緻な畝の造りに時々感心することはあるが)。もちろん、野菜であるから、春と秋に2回の植え付けと収穫をイベントとして執行し、その野菜は、訪問客にも振舞われるという。赤キャベツ、青色の葉のニンジン、大葉のテンサイなど、葉の色彩、大きさ、形状、テクスチュアの差を丁寧に区分し、レイアウトしている。またこの配植は、連作障害を避ける為に毎年変えられているのだ。
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緊張感さえ漂うこの庭を維持するのは、10名のフルタイムの庭師に、植え替え、刈り込み時の数名の臨時の庭師である。ヴィランドリーに限らず、フランスの多くの庭園は、政府の補助と一般の寄付を交えて、ギリギリに維持されているところが殆どとのことであるから、歴史建造物や庭の存在とは、何とも繊細なものであろう。長閑で平穏な世界を堪能する来訪者は、とてもあやうく、贅沢な時間を過ごしている、ということになる。
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16世紀以降、ブルトンの子孫が長らく所有してきたこの地を、スペイン生まれの医師、ジョアキム・カルヴァロが買い取り、現在の城と庭の原型をカルヴァロ自身の知見と理想によって造り変えているのだ。それまでの庭はもっと小規模で、その時々の流行を取り入れ、風景式庭園があった時代もあるという。カルヴァロは、ルネサンスという精神性にこだわり、庭を露壇型に造成すると同時に、各レベルに異なるコンセプトの庭を計画する。また、「愛の庭」と呼ばれる城館南側のチューリップの咲く庭は、知人のスペイン人アーティスト、ラザーノに依頼し造らせる。しかし、一番大面積を占める「菜園」の方は、ほぼ自身の手によってデザインし、1918年に完成させている。
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そう判って見直してみると、イタリアの往時ルネサンス期からある庭園より、擁壁の石の張り方、階段のつくりも遥かに新しく、近代的な精度である。またこの極度に洗練された幾何学形状も、モダニズムが隆盛するその時期のメンタリティの一面を体現しているようにも思える。ルネサンス庭園が持つ強固な軸性や、中世の庭園のような内向的な求心性も感じない。
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ルネサンス露壇型庭園に特徴的な異なる視線の高さから庭を楽しむことの出来るという視点移動は、確かに全体の主要な構成をなすが、そのもっと先には、更に真上からの俯瞰的な視点と、無限に拡張する近代のグリッドシステムのような指向性すら内包しているように感じる。

そしてこの拡張性は実際、子どもの遊び場に供する「芝生広場」や、「クマシデの迷路」などがつい近年に追加されていることからも、実践されているのだ。城館や庭の設備の修復、日々の刈り込みや植え替えなど、歴史建造物ゆえのオリジナリティの尊重に加えて、植物の成長と同時に、庭自体の変化と進化を許容すること、これがこの庭の生命維持システムなのである。
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20世紀初頭につくられたルネサンス様式ということを意識して見ている人は恐らく稀であろう。庭園を目の前にして、歴史を辿り、悠久の時間に思いを馳せる、史実と無垢なツーリズムの倒錯は、ついぞ陥る罠である。敢えてその術中に嵌って、十分に楽しむことが出来たとしたら、それは、デザイナーなり、オペレーターなりが優れている証左であり、素直にそれを賞賛すれば良いのであるが。
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(yng)
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by mindscape-ltd | 2008-09-01 22:51 | travel
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