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英連邦戦死者墓地

ランドスケープを語るとき、デザインが良い、ディテールが奇麗、植栽のメンテナンスが行き届いている、これらを総合して空間として優れている、と、専門家っぽく評価をしてみたところで、そんなことでは語りつくされない、何かもっと重要なことがあるはず、この「英連邦戦死者墓地」を訪れる時、いつもそう考えさせられる。
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横浜の中心街から少し外れた、緑豊かな丘の中腹にあるこの墓地は、デザイン、ディテール、メンテナンス、いずれも格別に優れていることは確かである。この辺には珍しいユーカリの大木、日本産の大谷石や御影石を使いながら、イギリス風のデザインでおさめた園路やモニュメントなど、デザイン的興味も尽きないが、空間として凛とした緊張感が漂い、リラックスした気分と、背筋を伸ばしたくなる気持ちの両方が襲ってくる場所である。
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まずは、ここが一般に広く開放された公園でも、観光地でもなく、墓地であるということ。さらには、この墓地が、第二次世界大戦時、主に日本軍の捕虜となり日本各地の捕虜収容所での苦難の末、母国に戻ることなく死亡した、イギリス連邦の兵士1900人余りが眠る場所であるということ(一部、英連邦以外で戦後も含む)。普通の墓地とも違い、墓碑が全て統一され、低い位置に整然と並び、まぶしい程に奇麗な芝生と、その間に、丁寧にバランスが考えられたバラやハーブなどの低木がアクセントとして加わっている。周囲は、厚い森林で囲われ、余計なものが視覚、聴覚に殆ど入らない。どこにも無駄が無く、全てに重厚な意味が詰まっているようである。
この場所は、大正11年、「児童遊園地」設置運動の走りとして開園した遊園地の一部であったが、戦後の一時接収により、英国連邦が墓地候補地とし、接収解除後も永久使用の為に英連邦に無償貸与されたもので、旧ビルマの泰緬鉄道の建設に従事させられ、その後日本に連行された捕虜、直江津収容所での捕虜虐待で死亡したオーストラリア兵を含め、死者を母国に搬送せず、現地に埋葬するイギリスの習わしに従って作られた墓地である。そしてイギリスの政府要人来日に際しても必ず立ち寄られる場所である。

特段、捕虜に関する説明はなく、エントランスには「日本国民から贈られた場所である」とだけ刻まれている。そのため、ここで戦争捕虜という負の歴史に思考を巡らせる人は、日本人でも多くないように思える。実際、山手の外人墓地と同列に、観光地のように解説する資料も見かける。しかしながら、ここは、多くを語らずとも誠実に慰霊するための神聖なる空間という、配慮と誠意に尽くされたピュアな場所なのである。各々の墓碑には、故人を哀悼する遺族の言葉が、各々力強く記されている。整然と、統一された墓碑に刻まれる、各々に異なる、静かなメッセージが、余計に、この場所に重みと深みを与える。

ここは、「場所」の持つ社会性や歴史、心情や愛情までをも含めた、ランドスケープの真義を思い起こすためのの、貴重な場所である。(yng)
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by mindscape-ltd | 2008-10-01 17:37 | travel


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